電車の中で読書をしていたときのこと。
ページをめくるたびに美味しそうな描写が現れて、気がつけばぐーっとお腹が鳴っていました。
恥ずかしいやら、微笑ましいやら。
そして、ひとつだけ確かなのは、「早く家に帰ってごはんが食べたい」という強い気持ちが湧き上がっていたことです。
小川糸さんの『あつあつを召し上がれ』は、まさに「食べることの楽しさ」がぎゅっと詰まった一冊。
短編集なのに、どの物語にも共通して流れているのは、“ごはん”という大きなテーマです。
だけど、この本が描いているのは、ただの食事ではありません。
大切な人との思い出、ふとした日常の風景、失ったものへの想い――
そういうものが、ごはんの湯気に乗って、優しく心に届いてくるのです。
湯気の向こうに見える、誰かの暮らし
どの話もほんのりあたたかくて、じんわりと胸にしみます。
心を閉ざしていた女の子が、たった一杯のスープに救われたり。
誰かと一緒に「いただきます」と言える、それだけで人生は豊かになるのかもしれないと、そんな気持ちになります。
おいしさって、味だけじゃなくて、思い出や空気や、時間や気持ちと一緒にあるんですね。
この本は、読みながら自分自身の記憶の中の“おいしい時間”を思い出させてくれました。
読後は、なにを食べよう?
本を読み終えたとき、私はすっかり「空腹モード」でした。
しかも、ジャンクなものじゃなくて、ちゃんと手をかけて、温かくて、誰かのことを思いながら作ったようなものが食べたい。
結局その夜、私は家に帰って、久しぶりにお味噌汁を作りました。
冷蔵庫にあった豆腐と油揚げ、そして最後に散らした青ねぎ。
特別なものじゃないけれど、それを「おいしい」と感じる心があること自体が、じつはとても贅沢なんだと思いました。
そしてふと、思ったんです。
「おいしいごはんって、いいなぁ」と。
節約しながらも、たまにはふらっと。
光熱費の値上がり、子どもの教育費、そしてなにより将来への不安……。
毎日のように「今日はなるべく出費を抑えよう」と思ってしまいます。
だけど、本当は。
もっと心に余裕があったら、節約ばかり気にせず、ふらっと気になるお店に入って、心ゆくまでごはんを味わいたいんです。
知らない街で偶然見つけた定食屋さん。昼下がりの喫茶店で食べるナポリタン。
そんな、小さなごほうびのような食事。
それは、旅みたいなもので、記憶にちゃんと残っていく特別な時間だと思います。
でも今は、限られた予算の中で、いかにおいしく、たのしく、食卓を囲めるかを考える日々。
冷蔵庫の残りもので作ったチャーハンだって、子どもが「おかわり!」と言ってくれたら、それだけでごちそうです。
それもまた、暮らしの味わいなのかもしれませんね。
まとめ:読むと、ほっこり。思い出して、じんわり。
『あつあつを召し上がれ』は、読んでいる間ずっとお腹が鳴る、危険な一冊です。
でもその鳴り響くお腹こそが、生きている証であり、「食べることを大切にしたい」という気持ちの表れでもあるんだな、と思います。
この本を読んでから、私は少しだけ食卓に座るときの姿勢が変わりました。
「いただきます」って、ほんとうに素敵な言葉ですね。
次は、何を食べよう。
そんな前向きな気持ちにしてくれる、素敵な読書体験でした。
お腹がすいているときには読まない方がいいかもしれませんが(笑)、心の中を、じんわりあたためてくれる一冊です。
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